旬弁当
勤め先にはおおむね弁当を持参する。おかずコーナーに必ず玉子焼きが三切れ入っている。二十数年来馴染みのメニューである。この玉子焼き、おいしい時もあれば、バサバサして食えない時もある。
毎朝かみさんが「ねぇ、今日もお弁当要るの」とたずねる。これも馴染みの文句。日々の味替わりが楽しみだと言えなくもないが、その時の雰囲気で、バサバサ玉子焼きが予想される場合は、
「いや、今日は要らない」と応ずる。
実は最近旬の魚を食わす昼飯屋を勤務先の近くに見つけたのである。一食六百五十円。毎日メニューに工夫があって楽しい。昼十一時半の開店を待ちかねて出かける。店に入ると、まだ準備たけなわだった。暖簾がまだ客席の椅子に座っていた。せわしく立ち働きながら店主顔を上げて
「ラツシャイ！ スズキの洗いか、うな丼、ハイどちら？」
「スズキの洗いがエエ」と私。
「まだあまり冷えとらんけど、ものはたしかや。あんたの口にも合うやろ」と店主。
たびたび訪れる間に、互いに海釣り党であることがわかり、友達になった。
釣り師の店主の出す魚料理。旬への意気込みが味である。洗いに添えたツマやケンもピシッと決まって美味かった。
おいおい増える客。注文は七三で洗いが多い。昼時間は客の回転が勝負であろう。サッと食って席を立った。店玄関先の日陰にタライ桶があって手タモがかぶさっていた。何かが動いている。スッポンだった。夜の宴席客の注文だろうか。いや、明日の昼は「ラツシャイ！スッポンか、うな丼、ハイどちら？」かな。夏バテがビックリして逃げだすぜ。